A01-6 機動性DNAエレメントの新規侵入が宿主へ及ぼす影響とその作用機序解明

研究代表者
塩見 美喜子 Siomi Mikiko
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授
塩見らは最近ショウジョウバエ卵巣由来体細胞株OSCを用いた研究により、LTR型トランスポゾンSpringerがL(3)mbt遺伝子のイントロンに“侵入”し、5’LTRからの転写と宿主-Springer(異種)間スプライシングを介してOSC特異的アイソフォームL(3)mbt-Sを発現していることを見出した。L(3)mbt-SはL(3)mbtのN末を欠損しているが、転写制御因子としての活性を完全に保持しており、また、ヒトなど高等動物のL(3)mbtオーソログに、より高い相同性を示す。この発見は、トランスポゾン転移活性が、実際に遺伝子進化や種分化の原動力となりうる可能性を強く示唆する。並行して、OSCにおいてSpringerがpiRNAの抑制から逃れるメカニズムを探索した結果、piRNAを産生するゲノム領域であるpiRNAクラスタflamencoに実質的な変異が生じ、Springerを抑制しうるpiRNAの産生が妨げられていることがわかった。さらに、OSCゲノムとmRNAのロングリード配列解析から、Springerが300程度のイントロンに挿入されており、そのうちの10%強がL(3)mbtと同様に、OSC特異的アイソフォームの発現に寄与していることが明らかになった。挿入箇所塩基配列の指向性も見出された。通常、トランスポゾンと宿主の関係は平穏であるが、ひとたびトランスポゾンが予期せず活性化されると、その利己的な転移が宿主ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームを変化させることは既に議論されているが、自然界ではその速度はあまりにも遅く、その実態を詳細に観察し解析するに適したシステムや方法はまだ確立されておらず、研究の進展は望めない。一方、OSCの場合外界からの制圧が個体(生殖組織)に比べ少ないためpiRNAクラスタに変異が生じやすく、piRNA群が変化し特定のモバイローム(Springerなど)が動的に動く。本研究課題では、OSCをモバイロームの動態とその出力をリアルタイムで観察・操作可能な生命システムとして捉え、機動性DNAエレメントの新規侵入と共存化が宿主に及ぼす影響や分子機序を詳細に解析し、理解することを目指す。並行して新規ゲノム編集技術の開発やトランスポゾンゲノム侵入のin vitro系構築も目指す。

研究業績 ※責任著者
塩見 美喜子
- Uneme Y, et al., ※Siomi MC.
Morc1 reestablishes H3K9me3 heterochromatin on piRNA-targeted transposons in gonocytes.
Proc. Natl. Acad. Sci. 121:e2317095121. (2024) - Bronkhorst AW, et al., Siomi MC.
An extended Tudor domain within Vreteno interconnects Gtsf1L and Ago3 for piRNA biogenesis in Bombyx mori.
EMBO J. 42:e114072. (2023) - Yamazaki H, et al., ※Siomi MC.
Bombyx Vasa sequesters transposon mRNAs in nuage via phase separation requiring RNA binding and self-association.
Nat. Commun. 14, 1942 (2023) - Yamamoto-Matsuda H, et al., ※Siomi MC.
Lint-O cooperates with L(3)mbt in target gene suppression to maintain homeostasis in fly ovary and brain.
EMBO Rep. 23, e53813 (2022) - Yamada H, et al., ※Siomi MC.
Siwi cooperates with Par-1 kinase to resolve the autoinhibitory effect of Papi for Siwi-piRISC biogenesis.
Nat. Commun. 13, 1518 (2022)